平日は午後六時に営業が終わる。二時間練習しても九時半には帰れる。社員の健康を考えて、福井は営業時間を短くした。さらに昼休みは全員、原則一時間。するとどうだ。仲間たちはみな元気にな り、売上も前年を上回るのである。「自立した魅力ある“人間”を育てたい。そうじゃないとお客さまもつかない」だから教えるのは技術だけではない。人として、どう魅力をつくっていくか。「人気商売ですから。周囲に人が集まるような人にならないと幸せになれない」それは福井自身がさまざまな失敗の中から学んできた、ひとつの結論だった。「技術ばっかり磨いていて、スタッフのことが観れていなかった。最初のころの店づくりは、失敗の連続でした」だが福井は気づいた。謙虚であること。感謝できること。人の役に立つ人間になること。その経験を仲間全員に伝える。それもまた福井の“教育”である。「まず言葉を共有しようと思ったんです。たとえば“幸せとは成功することではなく、成長することである”。それを共有したら、ぼくは仲間みんなが成長するために投資をして、環境を整えていく」 仲間が外部講習に行くときはその費用を補助する。教材費も補助する。「自己実現してほしい。会社の使命は仲間の幸せとお客様の幸せをつくること」たとえば福井は社内に撮影チームをつくった。作品をつくり、ヘアスタイルのバランスを学び、サロンワークに生かす。

あるいはこんなことも宣言している。「ハサミを持たなくてもいいんだよ」と。「向いてないと思ったら、別の道を選ぶ。ネイルでもアイでも。メンズ専門サロンや育毛サロンだってつくれる」福井は毎月、仲間と面談する。聞くのはどうなりたいか、何がやりたいのか。その上でひとつひとつを実現する道をつくる。それが会社の成長につながると信じているのだ。「独立したいという人がいたら、お店を出して任せる。利益が出るようになったら、そのお店を譲る。来年からひとり、その準備に入る仲間がいます」女性のためにはママさんサロンをつくった。営業は午後五時終了。休みはみんなで調整して自由に取れる。しかも身分はパートではない。準社員。社会保険も継続できる。店長には産休後に復帰した女性が就任した。「今まで美容室って、許容範囲が狭かったんですよ。それを拡げてあげたい。大型店にしかできないと思っていたけど、ウチくらいの規模でもできるんです」成功よりも人の成長を希求してきた福井は、しかし今、結果的に美容室経営を見事に成功させている。